本研究所のプレゼンスを内外に示すとともに,超高齢社会のあり方を議論することを目的として企画された連続講演会の第2回が,2018年12月9日(日)に本多記念国際会議場で行われた。今回は,慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの特別招聘教授 広瀬信義先生を講師としてお招きし,「百寿者からスーパーセンテナリアンへ―幸せな健康長寿のモデルを求めて-」という演題で,ご講演いただいた。高齢者の定義から始まり,百寿者研究の目的とこれまでの研究成果,さらにスーパーセンテナリアンの特徴について論じられ,最後は幸せな健康長寿への提言で締めくくられた。まさに人生100年時代にふさわしいテーマであった。会場には140名以上の参加者が興味をもって,広瀬氏のお話に聴き入り,活発な質疑応答が行われた。
前期高齢者と後期高齢者の定義は多くの方がご存知だろうが,それより上の高齢者の定義がはじめに紹介された。85歳以上を「超高齢者」,100歳以上を「百寿者」,105歳以上を「超百寿者」,110歳以上を「スーパーセンテナリアン」という。2018年現在,日本の百寿者は69,785人で,男女比は1対7で女性の方が多い。また,百寿者の全国分布図が示されたが,特定の地域に限定されておらず,全国各地に百寿者は存在していた。百寿者研究の目的は,幸せな健康長寿の秘訣,ヒトの老化形質及び老化の機序を明らかにすることと,それによって加齢に伴って起こる疾患の予防をすることである。これまでの研究成果によれば,百寿者の特徴は,多少の飲酒はするが喫煙率は低い,就学率が高く,小学校時代成績のよい人が多い,糖尿病や動脈硬化が少ない,炎症反応が低い,認知機能も高く活動的である。加齢に伴いなぜ炎症反応が亢進するかは不明であるが,炎症反応が動脈硬化や糖尿病を引き起こすことは明らかになっており,炎症反応を抑制することで老化を予防することが可能になると考えられている。
百寿者の性格特性は,男女ともに開放性が高い,女性はその他に外向性や誠実性が高いことが明らかになっている。また,百寿者は幸せ感が高いとのことだった。なぜ,幸福感が高まるかについては,トーンスタムの「老年的超越」が仮説として紹介された。
スーパーセンテナリアン(supercentenarian 以下SC)は2015年現在146人で,男女比は1対15で女性が多い。SCが100歳のときの日常生活活動度(ADL)と認知機能の調査結果から,100歳時に自立しており,認知症がないことが示された。高血圧や糖尿病などの疾患も少ない。SCは認知症や動脈硬化に関係するアポE(E4)が,一般の人や百寿者,超百寿者に比べ頻度が低いことから,SCの遺伝素因は他とは異なる可能性がある。したがって,SCは長寿遺伝子同定に最適の年齢層と考えられている。今後,SCの遺伝子が解明されることで,今まで治療がかなわなかった疾患の治療方法が開発されるだろう。大変期待される分野である。
講演後,多くの方がアンケートにご協力くださって,非常にたくさんの貴重なご意見・ご感想をいただいた。この場を借りて,皆様方のご協力に感謝申しあげる。ジェロントロジー研究所の今後の研究や講演活動等の参考にさせていただく。
講演会 当日の様子